大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

広島高等裁判所 平成9年(行コ)7号 判決 1998年9月30日

山口県防府市八王子二丁目三番三号

控訴人

株式会社国弘本店

右代表者代表清算人

國弘欣四郎

右訴訟代理人弁護士

桑原育朗

山口県防府市緑町一丁目二番一二号

(送達場所 広島市中区上八丁堀六番三〇号 広島法務局訟務部)

被控訴人

防府税務署長 時田安雄

右指定代理人

牛尾義昭

河島功

東京都千代田区霞が関一丁目一番一号

(送達場所 被控訴人防府税務署長と同じ)

被控訴人

右代表者法務大臣

中村正三郎

右被控訴人両名指定代理人

内藤裕之

山﨑保彦

主文

一  本件控訴をいずれも棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一申立

一  控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人防府税務署長が、平成六年八月三一日付けでした、控訴人の平成四年四月二日から平成五年三月三一日までの事業年度の法人税に係る過少申告加算税(加算税額金一万八〇〇〇円)及び重加算税(重加算税額金二六八万四五〇〇円)の各賦課決定処分を、いずれも取り消す。

3  被控訴人国は、控訴人に対し、金二七〇万二五〇〇円及びこれに対する平成六年一二月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

5  3項、4項につき仮執行宣言

二  控訴の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二事案の概要

本件は、清算法人である控訴人において、控訴人がした平成四年四月二日から平成五年三月三一日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)に係る法人税の申告に対し、被控訴人防府税務署長(以下「被控訴人税務著長」という。)が平成六年八月三一日付けでした過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)が違法であるとして、被控訴人税務署長に対し、その各処分の取消しを、また、被控訴人国に対し、不当利得返還請求権に基づき、右各賦課決定処分によって控訴人が納付した合計二七〇万二五〇〇円及び右納付日の翌日である平成六年一二月三〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを、それぞれ求めたのに対し、右請求をいずれも棄却した原審の判断を不服として控訴した事件である。

二 前提となる事実

前提となる事実(本件各賦課決定処分の経緯等)については、次に訂正するほかは、原判決中の「第二二 争いのない事実(本件賦課決定処分の経緯専)」欄(原判決五頁五行目から八頁二行目まで)記載のとおりであるから引用する。

原判決七頁二行目から四行目までを次のとおり改める。

「3 被控訴人税務署長は、平成六年八月三一日付けで、本件事業年度分の清算予納申告と清算予納修正申告の額の差額につき、国税通則法六五条一項、二項、六八条一項、同法施行令二七条の二、二八条等に定める比率に基づき加算税を算出し、過少申告加算税額を一万八〇〇〇円及び重加昇税額を二六八万四五〇〇円とする本件各賦課決定処分を行った(なお、過少申告加算税額及び重加算税額の計算それ自体については当事者間に争いがない。)。」

三 争点

1  清算予納申告に対して過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定をすることが適法か。

2  清算手続中における繰越欠損金の減少を所得とみなして課税することが適法か。

3  控新人が、本件各賦課決定処分によって、被控訴人国に納付した過少申告加算税額一万八〇〇〇円及び重加算税額二六八万四五〇〇円の合計二七〇万二五〇〇円は被控訴人国の不当利得と認められるか。

四 争点に関する当事者の主張

1  争点1について

(控訴人の主張)

(一) 法人税法六条は、内国普通法人等の清算中に生じた各事業年度の所得については、同法五条(内国法人に対しては、各事業年度の所得について各事業年度の所得に対する法人税を、清算所得については清算所得に対する法人税を課する。)の規定にかかわらず、各事業年度の所得に対する法人税を課さない旨を規定している。

そして、他方、法人税法は、課税上の政策的配慮に基づき、一〇二条一項一号、二号、一〇五条において、清算中の内国普通法人等であっても、その清算中の各事業年度の終了の日の翌日から二月以内に、当該事業年度の所得を解散していない内国普通法人等の各事業年度の所得とみなして計算した当該事業年度の課税標準たる所得の金額及び法人税額等を記載した申告書を、納税地の所轄税務署長に提出し(以下「清算予納申告」という。)、当眩申告書の提出期限までに、当核金額に相当する法人税を国に納付しなければならない旨を規定している。

(二) ところで、過少申告加算税及び重加算税(以下「加算税」という。)は、本税に付帯する税として規定されているのであるから、加算税を賦課するためには、その前提としての本税が存在し、その税額が有効に確定していることが必要である。そして、法人税法において、清算中の内国普通法人に関して本税が確定するのは法人税法一〇四条が定める清算碓定申告書を提出した場合のほかはないのであるから、仮に清算予納申告の時点で瑕疵があったとしても清算確定申告により右瑕疵は治癒されるというべきであって、未だ本税が確定しない段階でなされる清算予納申告及びこれに基づく予納額の納付に関し加算税を課すことは違法である。

すなわち、国税通則法六五条一項、六八条は、加算税の課税要件として、同法に定める期限内申告書の提出を要求している。ところで、同法において、期限内申告書の定義を定めた同法一七条一項、二項、二条六号の規定において、清算予納申告書を期限内申告書であると定めた明文の規定はない(解釈上も清算予納申告書が期限内申告書であるとする根拠はない。)。のみならず、同法六五条三項二号ロが期限内申告税額の意義について、法人税法二条四二号に定める清算中の予納額を、期限内申告書の提出に基づき同法三五条一項又は二項の規定により納付すべき税額から控除すべきであると定め、清算予納額の修正額が期限内申告税額である旨を明らかにしていることからすると、期限内申告書と清算予納申告書とはその法的性質を全く異にするものというべきである。また、清算予納申告に関し加算税を課すことが法の予定するところでないことは、清算予納申告と同趣旨の予納税である所得税における予定納税(所得税法一〇四条一項)、法人税の中間申告(法人税法七一条一項、二項)について加算税を課すことはないこと、さらに、確定申告に関する罰則規定(法人税法一五九条)においても、確定申告に係る法人税額(法人税法七四条一項二号)と清算確定申告に係る法人税額(法人税法一〇四条一項二号)を区別し、しかも、右罰則規定が予納申告には準用されていないことからも裏付けられる。

(三) 以上のとおり、清算予納申告に対し加算税を課すことは、清算中の内国普通法人等の各事業年度の所得については、法人税を課さないことを規定した法人税法六条に違反し、同法六条の存在にもかかわらず、加算税を課すことを容認する解釈をすることは租税法律主義に反するのであるから、本件賦課処分は違法として取り消されるべきことは明らかである。

(被控訴人税務署長の主張)

(一) 加算税は、申告納税制度の下で適正な申告をしない者に対し、一定の制裁を加えて、申告秩序の維持を図る要請から、行政上の制裁の一環として、規定されたものである。そして、その課税要件は、申告納税の義務違反の事実であるから、国税通則法上の期限内申告審が提出された場合において、修正申告書の提出があり、その修正申告に基づき納付すべき税額があれば、右税額に基づき、所定の税率に乗じて課されるものである。すなわち、加算税は、申告納税の義務違反の事実とその義務違反に基づく修正申告等による納付すべき税額があれば課せられるものであつて、法人税の場合についていうと、その納付すべき税額が稼働中の法人に係るものであるか、清算中の法人に係るものであるかを問わない。

(二) 清算予納申告書は、国税通則法二条一項六号の規定(納税申告書とは、納税申告に関し必要な事項を記載した申告書をいう。)、同法一七条二項の規定(申告納税方式による国税の納税者が、国税に関する法律の定めるところにより、法定申告期限までに提出する納税申告書を期限内申告書という。)、同法一五条二項三号の規定(法人税については事業年度の終了の時に納税義務が成立する。)並びに法人税法一〇二条一項の規定(内国普通法人等は、その清算中の各事業年度の終了の日から二月以内に、税務署長に対し、同項に規定する事項を記載した申告書を提出しなければならない。)及び同項一号、二号に鋭定する事項がそれぞれ国税通則法二条一項六号のイ、ニに該当することからして、国税通則法二条一項六号にいう期限内申告書であることは明らかである。

そして、事業年度の終了の時に納税義務が成立し、申告により納付すべき税額が確定する法人税においては、清算中の事業年度の終了の時に納税義務が成立し、清算予納申告書の提出により、清算中の事業年度に係る納付すべき法人税が確定することになるから、法人税法一〇二条一項の規定に基づき、清算予納申告書を提出することにより納付すべき法人税(予納額)が確定することになるのである。

(三) 予定納税は、前期の確定した税額を基準として当期の確定税額の一部を予め納付する制度であつて、清算予納申告が申告納税方式に基づく国税であることとの対比において、その趣旨及び納付すべき税額の確定手続が明らかに異なつており、これを同義に解する余地がないことは明らかである。

また、法人税の中間申告についても、法人税法七三条が、中間申告書をその提出期限までに提出しなかった場合には、同法七一条一項各号に掲げる事項(前記の実績による中間申告書の記職事項)を記戦した中間申告審の提出があつたものとみなす旨を規定していることから、法人税の中間申告書はその提出期限までにその提出がないときは、仮決算(法人税法七二条)によらない通常の申告書が、その提出期服に提出されたものとみなされるのである。したがって、法人税の中間申告には期限後申告は存在せず、また、いわゆるみなし申告については修正申告という問題も生じ得ないことからすると、そもそも中間申告に対し加算税が課されることはあり得ないのであるから、これを清算予納申告制度と同義に解することを前提とする主張は、法的根拠がない。

(四) 以上のことからすると、清算予納申告書の提出により、清欝中の事業年度に係る納付すべき税額が確定することは明らかであり、法人税法が、法人税法六条の規定を前提としながら、確定申告制度としての清算予納申告制度を採用している以上、清算予納修正申告書の提出があり、加算税の課税要件があれば、申告秩序の維持を図る要請から、右清算予納修正申告書の提出により、納付すべき法人税に加昇税が賦課されることは当然であつて、これをもって、法人税法六条及び租税法律主義に違反するものとはいえない。

2  争点2について

(控訴人の主張)

本件各賦課決定処分中の重加算税賦課決定処分は、本件事業年度における繰越欠損金の減少を不正所得とみなしたことによるものである。

法人税法一〇二条は、清算中の内国普通法人等の所得に係る予納申告について、解散していない内国普通法人等の各事業年度の所得に対する課税標準の計算式を準用する旨を定めている。しかし、右準用は、あくまで予納額を算出するための手段として右課税標準の計算式の利用を定めているだけであって、清算予納申告においても、継続中の法人と同一に扱うとの趣旨ではない。継続中の法人において各事業年度の所得を課税標準とする場合に欠損金の減少を所得とみなすことは当然としても、清算所得を課税標準とする場合における清算所得の算出にあたっては繰越欠損金は何らの意味も有しないものであるから、これを所得とみなしてなされた右重加算税賦課決定処分は違法である。

(被控訴人税務署長の主張)

法人税法五七条は、法人税法が各事業年度毎の所得によって課税する原則を採っている関係上、右原則を貫くときは、所得額に変動のある数事業年度を通じて課税する場合に比し税負担が過重となる場合が生じるので、その緩和を図るため、例外的に前事業年度以前に発生した欠損金を一定の要件の下に当該事業年度の所得から控除する、すなわち、損金の額に算入することを認めた趣旨の規定である。そして、同法一〇二条一項一号によれば、清算中の所得の計算においても繰越欠損金に関する規定が適用されることは明らかであり、例外的に当該清算中の事業年度の損益とは関係ない損金が、当該清算中の事業年度に所得の計算上生じることとなるのである。

したがって、繰越欠損金が清算所得算定に関係ないとしても、清算予納申告に係る法人税の額に関係する以上、繰越欠損金の減少を所得とみなすことは当然であり、控訴人の主張は理由がない。

3  争点3について

(控訴人の主張)

本件各賦課決定処分が違法であることは前述のとおりである。したがって、控訴人は、本件各賦課決定処分によって、法律上の原因なくして、被控訴人国に納付した過少申告加算税額一万八〇〇〇円及び重加算税額二六八万四五〇〇円の合計二七〇万二五〇〇円並びに右額を納付した日の翌日である平成六年一二月三〇日から被控訴人国の支払済みまで年五分の割合による金員の損失を蒙り、被控新人国は同額の利得を得た。

(被控訴人国の主張)

本件各賦課決定処分は、公定力を有するから、それに基づき納付された税金は、右処分が取り消され又は変更されない限り不当利得となる余地はないから、現在の請求として不当利得返還緒求をすることはそもそも失当である。

第三証拠

原審及び当審各記録中の書証目録記載のとおりであるから引用する。

第四当裁判所の判断

当裁判所も、以下に述べる理由により、被控訴人税務署長がした本件各賦課決定処分は適法であり、被控訴人国が不当利得返還債務を負うことはないと判断する。

一  争点1に対する判断

1  法人税法における清算中の内国普通法人等に対する課税原則

原判決一一頁四行目の「相当である」の後に次のとおり加えるほかは、原判決中の「第三 一 1(一)(1)」欄(原判決八頁末行から一一頁四行目まで)記載のとおりであるから引用する。

「(右法人税法の解釈については控訴人もこれを争わないものと解される。)」

2  控訴人は、清算中の内国普通法人等が、右清算予納申告書の提出義務及び右申告書記載の清算中の予納額の納付義務を負うことそれ自体は認めながら、法人税法及び国税通則法は、右義務が履行されなかった場合に、これに対して加算税の賦課決定処分をすること(すなわち、加算税の賦課という行政上の制裁を加えてまで右義務の履行を図ること)までを予定しておらず、そう解釈することは法人税法六条に反すると主張するので、以下、控訴人がその根拠としてあげる事柄につき順に検討する。

(一) 国税通則法上、清算予納申告審が、同法六五条一項、六八条に定める加算税の課税要件としての期限内申告書に含まれるとの明文の規定はなく、また、そう解釈できる根拠もないとの主張について

(1) 国税通則法において、直接的に、清算予納申告書が期限内申告書に該当すると定めた条文はない。

(2) しかし、国税通則法は、まず、一七条一項、二項において、期限内申告書とは、「申告納税方式による国税の納税者が、国税に関する法律の定めるところにより、納税申告書を法定申告期限までに税務署長に提出しなければならないとの規定により提出する納税申告書である」と定義し、二条六号において、納税申告書とは、「申告納税方式による国税に関し国税に関する法律の規定により同号イないしヘのいずれかの事項その他当該事項に関し必要な事項を記載した申告書である」と定義している。

(3) そして、法人税法においては、内国普通法人等の清算中の所得に係る予納申告を定めた同法一〇二条一項が、清算中の内国普通法人等に対し、「その清算中の各事業年度の終了の日の翌日から二月以内に、税務署長に対し、次に掲げる事項を記載した申告書を提出しなければならない。」旨を定め、これを受けて、同項一号以下には、その具体的な記載事項として、「当該事業年度の所得を解散していない法人の所得とみなして計算した当該事業年度の課税標準たる所得の金額又は欠損金額」(同項一号)、「当該事業年度の所得を解散していない法人の所得とみなして前号に掲げる所得の金額に基づき計算される法人税の額」(同項二号)等が定められている。

(4) 右(2)及び(3)からすると、清算予納申告において提出すべき申告書(清算予納申告書)において記載すべきと定められた事項は、国税通則法二条六号イにいう「課税標準」及び同号二にいう「納付すべき金額」に該当し、その提出期限は、国税通則法一七条一項にいう「法定申告期限」に該当するものというべきであるから、清算予納申告書は、国税通則法六五条一項、六八条に定める期限内申告書であると解するのが相当であり、この点に関する控訴人の主張は採用できない。

(二) 国税通則法六五条三項二号ロが、清算予納額の修正額が期限内申告税額である旨を定めた規定であることが、清算予納申告と期限内申告との法的性質の差を根拠づけるとの主張について

右主張に対する判断は、原判決一六頁四行目の「過少申告加算税の対象となるかどうかとは」を、「期限内申告が清算予納申告とその法的性質を異にするか否かとは」に改めるほかは、原判決一五頁一〇行目「同条項は、」から一六頁五行目まで記載のとおりであるから引用する。

(三) 所得税における予定納税(所得税法一〇四条一項)及び法人税の中間申告(法人税法七一条一項、二項)においては、加算税が課せられないこととの均衡をいう主張について

(1) 予定納税とは、税務署長が、所得税法一〇四条、一〇五条に基づき、居住者の前年分の課税額を本年分の納税額とみなして計算した予定納税額を納税者に対して通知(所得税法一〇六条)することにより、居住者が、右予定納税額を納付する義務を負う制度である。その手続には、申告手続が介在する余地がないのであるから、予定納税に対し、自主的な納税申告制度の維持を図ることを目的とする加算税が賦課されないことは当然であつて、この点に関する控訴人の主張は採用できない。

(2) 中間申告における申告は、原則として、当該事業年度の前事業年度の確定申告書に記載すべき法人税額を基礎としてなされ(法人税法七一条一項一号)、さらに、中間申告書の提出がない湯合には、前期の実蹟による中間申告書の記載事項を記載した中間申告書の提出があったものとみなされる(同法七三条)ものであることからすると、自らが新たに課税標準に従って計算した所得の金額及び法人税の額を申告することを義務づけられている清算予納申告とは異なる納税申告方式を採用したものであること、しかも、中間申告を定めた趣旨は、法人税の一事業年度において、一度に納税することは納税者の負担ともなるし、また、国庫歳入の平準化を図ることにあるというべきであり、内国普通法人等に対する課税の空白に対処するという趣旨をも包含する清算予納申告とはその制度の基礎を異にするものであるから、仮に、中間申告に加算税が課せられない(なお、加算税のうち、無申告加算税については、法人税法七三条の規定により中間申告については無申告が生じる事態は存在しないし、過少申告加算税及び重加算税についても、中間申告において記載すべき金額が前事業年度確定申告書に記載すべき金額を前提としていることから、過少申告が生じる事態は特段の事情がない限り想定できないが、仮に、右のような事態が生じた場合に、これに加算税を課さないとする法的根拠はないというべきである。)としても、清算予納申告をもこれらと同様に解することはできず、したがって、控訴人の右主張もまた採用できない。

(四) 確定申告に関する罰則規定(法人税法一五九条)において、確定申告に係る法人税額(法人税法七四条一項二号)と清算確定申告に係る法人税額(法人税法一〇四条一項二号)が区別され、しかも、右罰則規定が予納申告には準用されていないとの主張について

法人税法一五九条が、偽りその他不正の行為により、法人税の額につき法人税を免れた場合の処罰要件として、確定申告に係る法人税額と清算確定申告に係る法人税額を構成要件的に区別し、清算中の所得に関する予納申告に係る法人税額を処罰の対象としていないことは控訴人が主張するとおりである。

しかし、同条において、予納申告に係る法人税額につき法人税を免れた場合を処罰の対象としていないのは、それが最終的に税額が確定するという意味での確定申告ではないからであると解するのが相当である。のみならず、同法一六二条一号は、同法一〇二条一項(清算中の所得に係る予納申告)の規定による申告書に偽りの記載をして税務署長に提出した場合の法人の代表者等を、一年以下の懲役又は二〇万円以下の罰金に処する旨を定めているのであり、控訴人が主張するとおり、清算予納申告に加算税を課すことが違法であるとすると、同法一六二条は、行政罰を課すことができない行為に対して刑事罰を科していることになり、その解釈が不合理な結果をもたらすことは明らかである。したがって、右控訴人の主張は採用できない。

(五) 以上で述べたとおり、控訴人が、清算予納申告につき本税が存在しないとしてこれに加算税を課すことが違法であると主張する根拠はいずれも採用できないというべきである。

3  そこで、翻って、加算税が課せられる趣旨につき考える。

加算税を課す趣旨は、納税者自らの計算に基づいて所定の税率を適用した上で税額を算出し、これを申告してその税額を納付するという申告納税方式を採用する税制度において、適正な申告を行わない者に対し、加算税の賦課という行政上の制裁を加えることにより、納税申告制度の維持を図ることが必要であるとの考えに基づくものと解される。

そして、前記1で説示した清算予納申告制度の存在理由に照らすと、清算予納申告においても、納税者に対し、右加算税の賦課という行政的制裁を課すことにより、真正な申告を担保する必要性は高いものというべきであるから、加算税の賦課に関し、清算予納申告を例外とする特別の規定が存在しない以上、これに関し、国税通則法六五条一項、六八条により加算税を課すことは適法と解するのが相当である。

また、清算予納申告は、期限内申告書等の記載内容、その提出期限等の加算税の賦課要件の観点からすると、それ自体で完結した申告納税制度であり、清算予納申告書の提出により、清算中の事業年度に係る納付すべき税額が確定するというべきであるから、法人税法が清算予納申告制度を申告納税制度として採用している以上、加算税の対象となる本税とは、清算予納修正申告書の提出により納付すべき法人税額と解するのが相当であり、これを清算確定申告により納付すべき法人税であるとする控訴人の主張は採用できない。

以上のとおり、法人税法が、一〇二条以下において、右のような清算予納制度を採用している趣旨を含めて法人税法全体を解釈すると、法人税法六条は、課税所得等の範囲について、後に清算確定申告における還付等を定める必要から、継続中の法人とは別の課税原則に立つことを表明した規定と解釈するのが相当であり、同条を根拠に、本件各賦課決定処分の違法をいう控訴人の主張は採用できない。

二  争点2に対する判断

当裁判所も争点2に対する控訴人の主張は採用できないと判断する。その理由は、原判決二一頁一〇行目の「争点<1>で指摘したとおりであり、」を「争点1に対する判断について説示したとおりであり、」に改めるほかは、原判決中の「第三 二」欄(原判決二一頁一〇行目から二三頁二行目まで)記載のとおりであるから引用する。

三  本件各賦課決定処分の対象となった事実についての認定判断

本件各賦課決定処分の対象となった事実の認定とこれに対する判断については、次に訂正又は削除するほかは、原判決中の「第三三」欄(原判決二三頁三行月から二五頁九行目まで)記載のとおりであるから引用する。

1  原判決二三頁三行目及び原判決二四頁末行の「前記第二、二2に掲記した事実」を、それぞれ「前記第二 二で説示した事実」に改める。

2  原判決二三頁未行の「明らかである。」から二四頁四行目の「適用除外例には当たらないというべきであるので、」までを、「明らかであり、国税通則法六五条五項の適用除外に当たるという主張はないので、」に改める。

3  原判決二四頁七行目の「前記第一1(一)(3)、」を削除する。

四  争点3に対する判断

当裁判所も、争点3についての控訴人の主張は採用できないと判断する。その理由は、原判決中の「第三 四」欄(原判決二五頁一〇行目から二六頁初行まで)記載のとおりであるから引用する。

第五結論

以上によると、控訴人の本訴各請求はいずれも理由がないから莱却すべきであり、これと同旨の原判決は相当であって、本件控訴はいずれも理由がないから棄却し、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六七条一項、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 日髙千之 裁判官 野々上友之 裁判官 太田雅也)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例